愛しさと 切なさと わしの城

「あのー、、、やっぱ帰ってもらっていい?」


カルフールでいつも通り楽しくちんたらと買い物を楽しんで、わたしの荷物を運んでもらうために自分の部屋まで送ってもらった。


スーツケース2つ分を預けていたから大きな紙袋二つ抱えてバックパックを背負ってもらったダーリンと、今日の買い物分の荷物と、彼が持ってきたという袋をわたしが持って部屋に向かった。


買ったもの、預けていた私物の荷ほどきをしている時だった。


「タオルないと思ったから買っておいたよ。先に洗っておいたからすぐに使えるよ。」

「これ、よかったら使ってよ。マット、洗面所とかバスルームの入り口とかおいて。」


なぜか彼が独自で用意してくれていた日用品が次から次へと出てきた。


「ありがとう、でもわたし昼間買ったから用意してあるよ、まだ出してないけど。」

「そうなんだ、あと包丁。」

「うん、包丁も自分の買ったよ。」

「そうなんだ、これ果物とか切りやすいし、それ以外肉系なんかも切りやすいよ。」

「・・・あぁ、」


わたしは自分の部屋のイメージは「コレ」と決めたものがある。

それにちなんで用意できていた色合いのタオル系やマットとか、本当に小さな人間だと自分でも思うけれど、


「そんな明るすぎる水色とか赤系のタオルとかいらないから。」(心で叫んだ)


「それからシャワージェル、ハニーはラベンダーの香りは好き?」


もうその時点で風邪気味だった調子がマジ大病的に進化して言葉を発するのさえ億劫になり始めていた。(ちなみにラベンダーは好き。)


買ったものの設置とか正直もう何もやりたくないと思った初日の夜。

ちらっと見えた彼のお泊まりセット(歯ブラシとかヘアワックスとかの袋)の存在に気づいてからわたしの気持ちはどっと疲れてしまった。


「どうしたの?疲れた?」


いつものように迫ってくる彼を嫌々避けて交わし、日本出国時から飲み続けていたコンタックと龍角散ダイレクトを大げさに飲むそぶりを見せた。


「風邪引いてんの、わたし。ゲホ、ゴホ!あと腰が痛い。ゲホ!」


肺炎で死ぬんちゃうか?ってくらいの咳を複数回披露して二人してソファに座り込んだ。


普段とは違うハニー(わたしのこと)、まぁ移住初日だしな、風邪とか言ってるしと認識してくれたのか、彼も彼でスマホをいじり出ししばらく無言な空気が流れた。


わたしはわたしで自分の考えにぐるぐるしていた。

念願の一人暮らしと夢の台北生活。わたしの城構築に向けていまものすごく楽しい。

好きなもの、気に入ったもので作りだす空間。

そこに大好きな人からの自分のテイストとはずれるものが運ばれてきて、まさか一緒に住みたいとか遅かれ早かれ言いだすんじゃないか、早くも城が奪われちまうんじゃないかなんて妄想に取り憑かれ始めた。


いやいや、違うんだって。彼の思いやりで運ばれてきたものじゃないか。わたしの新生活、しかも海外で一人暮らし、不自由がないようにと思っての彼の優しさの表れなんじゃないか、コレはありがたく受け止めるべきもの、そう思わないわたしは「鬼」だ。


「あのー、、、申し訳ないんだけど、やっぱ今日帰ってくれる?」


びっくりしたような顔を見せられた。それもそうだろう、わからなくもないけれど、わたしには耐えられなかった。


去年、台湾でお世話になっている、台湾人のお姉さんと呼んでいる女性にこんなことを言われた。


「遠距離のカップルって、離れているからうまくいっているってパターンもあるからね、彼は大丈夫?」


きっと大丈夫、彼に関してまさかそんなことはない、そう思っていた、その時は。

でも、今台湾に越してきて初っ端から感じたこと、


「あれって、彼に対してじゃなくて、わたし自身じゃん!!」


旅行でやってきて限られた日数の中で目一杯一緒にいるようにして、どこに行くのも一緒、いつでも一緒、楽しいし仲良しなわたしたち、でも明日には帰国しちゃう、寂しいな、早く会いたいな。離れているから会った時の気持ちが爆発する、そんな刺激程度がよかったのかもしれない。


恋愛をしにきたわけではない、わたしは仕事をしにきている。

同棲?結婚?ちょっと待って、無理無理!

申し訳ないけれど一人暮らしは存分に楽しませてもらうよ。わたしの城に何人たりとも入れたくないわ。


「今日は疲れたし、調子が悪い。ごめんね、ありがとう。」


彼を追い払って、一人ぼっちになった部屋で一句。


ほっとする、やっぱり ここは わしの城




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